(二十歳の原点+未発表ライヴ)


Songs

1、学園闘争 [四人囃子] 2:13
2、夜Ⅰ [コンフィデンス/四人囃子] 1:53
3、青春 [岡田富美子/四人囃子] 2:18
4、? [高野悦子/四人囃子] 2:13
5、あなたはわたし [末松康生/四人囃子] 5:18
6、煙草(夜Ⅱ) [コンフィデンス/四人囃子] 3:12
7、涙の年齢 [末松康生/四人囃子] 5:00
8、今朝は20才 [末松康生/四人囃子] 4:18
9、四人囃子から高野悦子さんへ [末松康生/四人囃子] 3:21
   
10、映画用BG T-1 [四人囃子]2:25
11、映画用BG T-2 [四人囃子]2:21
12、煙草
  (1973年・新橋ヤクルト・ホール・ライブ) 
[コンフィデンス/四人囃子] 3:10
13、ライト・ハウス
  (1973年・杉並公会堂ライブ)
[森園勝敏] 10:50

 Album Credit

四人囃子 :
森園勝敏(Gt)
中村真一(Bs)
坂下秀実(Kb)
岡井大二(Ds)

RECORDING MIXING ENGINEER : 大友洋二 (1~11)

PHOTO BY : 吉浜弘之


 Notes

初期の四人囃子の決定盤登場

田口 史人

 四人囃子マニアのみなさんコンニチワ! いやあ僕はビックリしちゃいました、四人囃子のマニアがこんなにたくさんいるなんて。ジャックスとはっぴいえんど以外でアーティストの研究がファンの手でこんなに進められている日本の70年代のバンドがあるなんて思いもよらなかった。ホントに。詳しくはホームページを見てほしいと思いますが、この四人囃子の幻のファースト・アルバムを買った人は恐らくそんな四人囃子ファンの方々や、少なくとも初期作品には耳を通している方々だと思うんで、そのつもりで私の四人囃子雑感と簡単な背景の2本立てでライナーを進めたいと思います。え、聞いてない?四人囃子の曲を聞くのはこれが初めて?うーん、いけませんねえ。いや、このCDがダメだってんじゃないですよ。ただ、一応決定盤である『一触即発」(キャニオン)と『ゴールデン・ピクニック』(ソニー)は通過していたほうがこのCDを十二分に楽しめると思うんです。このCDから聞いて四人囃子を気に入ってくれればいいんですが「なんだ、こんなもんか」なんて思われちゃうと「オイオイちょっと待ってくれよ」と言いたくなってしまうんで、その辺一応頭の片隅に置いといてください。なぜかというと、以下このアルバムのことをちょっと説明。

 このアルバムは四人囃子が公式にデビュー・アルバムとされている『一触即発』を発表する8か月前にファースト・アルバムと同じ東宝レコードからリリースしていた四人囃子最初のレコーディング作品です。当時ベストセラーになった自殺した女学生の手記『二十歳の原点」を映画化したものの、いわゆるサウンドトラックと言うより今で言うイメージ・アルバム的な作品で、オリジナル盤はその映画に主演した女優、角ゆりこの語り(映画からの抜粋?)と四人囃子の演奏が交互に収録されるという構成になっていたが、本CDからはそのセリフの部分をメンバーの意向でカットした(ちょっと残念)。

 このアルバムはLP時代にも一度メンバーに無断で編集盤『TRlPPLE MlRRO OF YONlNBAYASHl』という『一触即発』とシングル『空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ』とカップリングするという強引な2枚組アルバムの中に収録されてはいたが、その時もセリフはカットされていたんで、オリジナルな形の復刻は未だ成されないということにはなるのかもしれないけれど、そこはまあ四人囃子の演奏は全部収録されているんで勘弁してほしい。

 で、このアルバムであるが、日本プログレッシヴ・ロックを代表するテクニシャン揃いのバンドというイメージとはちょっと趣の違ったフォーク・タッチの演奏が聞かれるアルバムだ。楽曲目体はもちろん四人囃子のオリジナルではあるが、当時のライヴでお馴染みのナンバーなどはその性格上やはりまったく収録されていない。ここに収録された楽曲はそのほとんどがこの作品のための書き下ろして、言ってみればクライアントからのオーダーを「仕事」としてこなしたアルバムだ。それもかなりメンバーがクレバーにそれに答えているところが笑えないというかしたたかというか不気味というか。とにかくこのバンドの底力をかえって見せつけられる。当時はファースト・アルバムを自分たちで好きにやらせてもらうためのバーターの企画としてこのアルバムがあったらしいので、なんというか物凄い割り切りがあったんだとは思うが、しかしそこは四人囃子。このアルバムからもその独特の個性は垣間見える。というか、むしろその特異さは傑作とされる『一触即発』や『ゴールデン・ピクニック』よりも際立って聞こえると思うのが私見なのである。

 主にプログレッシヴ・ロックの名バンドとして、ピンク・フロイドの曲を完コピしただのそのバンド・アンサンブルの見事さだのアイディアの豊富さだのが言われる四人囃子だが、むしろ僕にはそうしたサウンド面での巧みさよりも「歌」としての魅力に耳が行ってしまう。だからどうしても僕にとっての四人囃子には森園勝敏が必要なのだ。そしてその森園の歌にはどうしたって末松康生の詩がなければならない。初期四人囃子の魅力の多くの部分を実は担っているこの末松康生という人物は森園が連れてきたらしいが、今回のリイシューの件でお会いしたドラマーの岡井大二氏もその出会いについてはよく知らないそうだ。『一触即発』、シングル『円盤』、『ゴールデン・ピクニック』の中の『空と海の間』『泳ぐなネッシー』と、初期の詩のほとんど全部を担当した末松の作品は、時空問を自由に行き来するSF的なスケールとシュールな展開を通して、どうしようもなく切ない記憶を呼び起こすような魅力がある。その代表作が『一触即発」に収録されている『おまつり』という1曲だろう。この曲ではある「町」が描かれている。主人公は「町」へ行くたんびに帰ることのできない「故郷の記憶」に責められて泣いてしまう。このノスタルジックというにはあまりにもシュールで哀しい世界が初期四人囃子の大きな魅力であることは間違いない。

 そういう点から見たときにこのアルバム『二十歳の原点』は「今朝は二十歳」「涙の年令」といった佳曲が聞ける重要なアルバムである。また、珍しく「青春」「夜」「?」といった他人の詩を歌っているのも聞きどころだ。特に「青春」「?」の2曲はアコースティック・ギターの弾き語りのスタイルで森園勝敏のヴォーカリストとしての魅力が全面に出た作品で興味深い。森園のどんなに声を張り上げても熱く聞こえないクールでその詩世界のスケールだけを淡々と描写するような、ある種説明的とも言えるヴォーカルは、末松の書く詩世界とあいまうとシュールさを増して独特な世界感を表出するが、こうして聞くとフォーク・ソング向きな歌声なのではないかとも思う。いや、「?」なんかを聞くとアシッド・フォーク向きかもしれない。

 このCDは当初、この四人囃子の幻の初スタジオ録音作『二十歳の原点』のCD化を企画したものだったのだけれども、メンバーの強い意向でそのままの復刻ということにはならなかった。しかし、そのおかげで更に資料的にも貴重な上に、『一触即発』以前の四人囃子をヴィヴイッドに伝えられる“アーリー・デイズ”のタイトルがふさわしい内容のものになった。元・四人囃子のドラマーだった岡井大二さん達からボーナス・トラック用に提供していただいた昔源は最後の2曲のライヴ・トラック。「煙草」はこの『二十歳の原点』のために録音された曲で、このサントラ用の曲をライヴでやっているのは極めて珍しい。もう1曲の「ライト・ハウス」は四人囃子超初期の森園のオリジナル曲で、まだ作詞に末松を起用する以前の英語詞による前身バンド“ザ・サンニン”のサウンドが恐らくこれだったんだろうと思わせる貴重な録音。さて、実はオマケがまだある。『二十歳の原点』のマスターを東宝から取り寄せたところ、それは編集前のものだったのだ。ここには『二十歳の原点』のオリジナルには未収録だった映画用のBGが2曲、「夜」のヴァージョン違い「煙草」の3曲が収録されているというオマケつきだった。なんという幸運。特に映画用の未発表BGのアグレッシヴな演奏は聞き物だ。結果、このCDは初期四人囃子の最も豪放な部分と最も繊細な部分を収録した決定盤とすることができた。さらには来春位に元メンバーの手によって四人囃子の歴史を集大成したボックス・セットや未発表のライヴ音源のCD化も企画されているという(メーカー/発売日などは未定)ので、四人囃子ファンにはこたえられないことになりそうだ。


1998年8月

 

二十歳の原点

 語りは入っていないけれど、1973年に高校2年だった俺は『二十歳の原点』を高校の図書室で読んで「原点てなんだ?」と少し憤はしたものの、四人囃子のデビュー・アルバムは清々しいと思った。本よりも音楽は素敵だった。『一触即発』を高校3年のときとてもよく聴いた。気が遠くなるような天気の日のことを思い出しながら。採っても採っても採り切れないほどのアブラゼミがいる木立の中で、パチンコでセミを撃つのが毎日だった中学2年の夏休みには四人囃子はまだなかったけれど、その年の夏の感触が今でも『一触即発』と『二十歳の原点』を聴くと蘇る。つぶやきながら小さく震れて余韻を残してゆく森園勝敏の歌のせいだろうか。…・・他人の悩みやとまどいなんて真に受けてはいけない。真に受けるやつに寄り掛かってやろうとそいつがてぐすねひいて待っていることはよくあることだ。


1998年蝉月 湯浅 学


Lyrics

今朝は20歳

詩・末松康生

大きい木の下で
明るいお日さまを
そのまま感じる
けさは はたち

けっしてあんな風に
自分にうそなんか
つかないと思う
けさは はたち

でも何かにつかまっていないと
糸が切れた凧みたいに
どこかに落ちてしまいそう

知らない誰かに
電話をかけてみて
教えてあげたい
けさは はたち

おいしいものなんか
たべた後みたいに
ひとり笑いする
けさは はたち

でも何かにつかまっていないと
糸が切れた凧みたいに
どこかに落ちてしまいそう

あなたはわたし

詩・末松康生

あなたはわたしかも知れないと
ふと思ってしまうのは
なぜだろう

いつかずっとむかし
人間が空を飛んでいたころ
会ったことがあるような気がするから

いま、あなたは本の間に
優しさの木の葉をはさんでいるのを
知っている
あなたが淋しいとき
そばにいて うなだれた肩をじっと
抱いていたい
わたしがわたしであるように

あなたはわたしかも知れないと
ふと思ってしまうのは
なぜだろう

いつかずっとむかし
その大きなつばさの中にしっかりと
抱かれたことがあるような気がするから

いま、あなたは厚い胸に
オルガンの音をひびかせているのを
知っている
あなたがうれしいとき
そばにいて こぼれる笑顔をじっと
見上げていたい
わたしがわたしであるように

何が違う(詩のみ)

詩・岡田富美子

何が違うの 二十才
お酒・煙草がのめるわ
何が違うの 二十才
フラリ夜汽車に乗りたいわ
親からもらった地図を捨てて
今日から一人で歩くのよ
雨に逢ったら雨宿り
日の出を見たら手を振るわ

人が振り向く 二十才
私 きれいな娘かしら
人が振り向く 二十才
男の人を愛したい
激しい激しい恋に溺れ
自分の世界を崩すのよ
何も知らない だからこそ
何でも出来る 二十才なの

涙の年令

詩・末松康生

涙のとしはいくつ
わからない わからない
生きたとしはいくつ
わからない わからない
ふるえているんだ
ふるえているんだ
おかしいくらいに
ふるえているんだ

暗い駅から電車に乗った
ゆれてゆれてとおりすぎる
愛したものたち いとしいものたち

涙のとしはいくつ
わからない わからない
生きたとしはいくつ
わからない わからない
ふるえているんだ
ふるえているんだ
おかしいくらいに
ふるえているんだ

秋の日ざしに目まいした
ゆれてゆれて とおりすぎる
愛したものたち いとしいものたち

青春

詩・岡田富美子

自分のために生きているのに
心のすきまが埋らない
自分の名前をノートに一杯
書いて見るけど埋らない 鉄棒にぶらさがった
宙吊り人形みたい
落ちないように 落ちないように
落ちると下は暗闇だから

自分が憎い訳じゃないのに
自分をいじめて泣かせたい
夜更けの小雨にコートを濡らし
行き止まりまで歩いてく
どうしてもうまく飛べない
あひるの子供みたい
落ちないように 落ちないように
落ちると下は暗闇だから

詩・コンフィデンス

暗闇の中で 静かに立っている私
今日はじめて夜の暗さを いとしく感じる
暗い夜は 私のただ一人の友になりました
あたたかく私をつつんでくれます
夜は 夜は...............

生きている
煙草のかぼそい
むなしい
煙のゆらめきが
貴方の胸ですごすかすかなひととき

静かに言葉も出ないままに
私は夢にあこがれ
そしておびえている
それでも私は生きている

詩・高野悦子

旅に出よう
テントとシュラフの入ったザックをしょい。

ポケットには一箱の煙草と笛をもち
旅に出よう。

出発の日は雨がよい。
霧のようにやわらかい春の雨の日がよい。
萌え出でた若芽がしっとりとぬれながら

そして富士の山にあるという
原始林の中にゆこう
ゆっくりとあせることなく

四人囃子から高野悦子さん江

詩・末松康生

おまえがおまえであるために
おまえがおまえでなくなった
雨の夜、おまえは死んだ
さよならをいうのには
雨の日は似合わない
さよならをいうのには
晴れた朝のほうがいい
自分が自分であるために
つらい唄を唄おう