bad anima 森園 勝敏

 

(CD再発) KING RECORD KICJ 2205  2,000円

 

ディア・ハーヴィー
Dear Harvey (Daisaku Kume) 7:45

ユール・スティル・イン・マイ・ハート
You'll Stay In My Heart (B. Dean) 4:50
ダーク・サイド・オブ・ザ・フィッシュ
Dark Side Of The Fish (Katsutoshi Morizono) 6:32
ミッドナイト・ワルツ
Midnight Waltz (Katsutoshi Morizono) 2:20
ハイ・タイド
High Tide (Katsutoshi Morizono) 11:00
スペース・トラヴェラー
Space Traveller (J. Vincent) 4:07
ラスト・タンゴ・イン・メンフィス
Last Tango In Memphis
(Booker T. Jones/Stave Cropper/Donald "Dack" Dan)
 7:07

サウンド・クリップは、90秒収録、リアル・オーディオのストリーミングです

 

All Songs Arranged by KATSUTOSHI MORIZONO except "Dear Harvey" by DAISUKE KUME &KATSUTOSHI MORIZONO
Horn Arrangement by SATOSHI NAKAMURA
Produced by SHIGEYUKI KAWASHIMA, KATSUTOSHI MORIZONO
Recorded & Mixed by RYOJI FUKUSHIMA
Assistant Engineer : KOICHI SUZUKI
Recorded at King Studios, 14〜30 Oct. 978
This Album was Mixed with the Aphex Aural Exciter (2,6)

Special thanks to YAMAHA, Morizono Family, Shigeru Nagasawa, Katsuro Hatsukawa
Very Special thanks to NOBUYUKI YOSHINARI (Taiyo Music, Inc.)
Photos by AKIRA AIMI
Re-mastering Engineer : SEIJI KANEKO (King Record)

katsutoshi morizono
(electric guitar, accoustic guitar, vocales, solina)
daisuke kume
(accoustic piano, electric piano, solina, mini moog)
satoshi nakamura
(tenor sax, accoustic piano, hammond organ, mini moog)
koki ito (1,2,5,6)
(mini moog, polyphonic synthesizer, solina, hammond organ)
ryoichi akimoto
(fender bass)
rei ohara (3)
(fender bass)
muneo sagara
(drums, percussion)
shuichi murakami (3,5)
(drums, synthesizer drums)
mack suzuki
(percussion)
yosuhisa shirao (1)
(alto sax)
horn spectrum
satoshi nakamura(tenor sax, soprano sax)
ichiro nitta(trumpet, trombone, flugel horn)
junichi kanezaki(trumpet, flugel horn)

 

ライナー・ノーツ

 “ANIMA”は、「生命、魂」といった意味を持つラテン語。そして、“BADANIMA”
は、人間を含むすべての生き物に共通する本能的な部分、あるいはそうした要素を意味する。
 まさに、“本能的”と言える森園勝敏の音楽性は、この初めてのソロ・アルバムのいたるところに感じられるはずで、そこには、単にギタリストとして、あるいはヴォーカリストとして以上の彼の個性があるのだ。
 日本のロック・グループが地道ながらも演奏活動を続けて、次第に支持層を広げてきた過去数年間において、明らかにひとつの歴史が形成されている訳だが、そんな中で、森園は四人囃子のオリジナル・メンバーとして、またヴォーカリスト/ギタリストとして活躍してきた。常に“オリジナリティ”を問われ続けている日本のグループの中で、森園のギター・ワークは、彼の作曲能力と共に高く評価され、その個性を確実に築き上げている。
そんなところが、この23才のアーティストの魅力であり、無限の可能性を感じさせるのではないだろうか。
 世界的に浸透しつつある事を否定できない“クロスオーバー”への関心が日本でも一般的に高まってきた頃、森園はプリズムのメンバーと意気投合し、こと“急進的”なグループ、プリズムのメンバーとして活動し、それまでの音楽性に一層深味を加え、柔軟なプレイを聞かせてくれた。
 プリズムは、明らかに最も現代的な一面を強調したグループであり、アイディアに溢れたエネルギッシュなメンバー和田アキラ、渡辺建、鈴木徹、伊藤幸毅、久米大作によって構成されており、森園の参加は彼自身にとってと同時に、グループにとっても非常に有意義な事であったと言える。
 そのプリズムを離れる事によって、森園が自分なりの解釈による新しい音楽を創造する方向へと進んだ結果がこのアルバムである。
 ひとつには、プリズムというグループのコンセプトでは表わせない森園の音楽観を自由に表現する上でまたギタリストと同時にヴォーカリストである事を再確認する上でこのアルバムは、プリズムとは違った視点から“クロスオーバ”へのアプローチを試みていると言えるだろう。
 森園の場合、背景にあるのは明らかにロックであり、それは既にブルースを内含している。現在、クロスオーバーと呼ばれる範囲の音楽がひとつのジャンル化しつつあるとすれば、森園の創り上げる世界はおそらくそうしたとらえ方さえも否定せざるを得ないのかも知れない。
 ギターという楽器の親しみ易さから、あらゆるタイプのギタリストが注目を浴びている最近の状況の中で“オリジナリティ”を感じさせる数少ないギタリストのひとり、それが森園勝敏だ。そして、このアルバムには、ギタリストとして以上の、彼の“本能的な”音楽性が反映されている、と繰り返しておこう。

ここで森園勝敏の簡単なバイオグラフィーにふれておこう。
1954年2月18日、東京・中野区鷺宮生まれ。
 小学校5年生の頃、ベンチャーズを聴いてショックを受けたのがポピュラー音楽との出会いである。そして、それはそのまま、翌年に手に入れたアコースティック・ギターによってさらにエスカレートし、中学校に入るとすぐにザ・ウインズなるフォーク・グループの結成へとつながっている。この、ザ・ウインズは、PPM(ピーター、ポール&マリー)やキングストン・トリオなどの曲を主なレパートリーとしていた。
 間もなく、ザ・ウインズのアコースティック・サウンドに物足りなくなった森園は、借りもののエレクトリック・ギターでベンチャーズ風のバンドを始める。こうして、エレクトリック・サウンドヘの興味が増すにつれてビートルズ、スペンサー・ディヴィス・グループ、クリーム、ジミ・ヘンドリックス等に夢中になり、“ギタリスト”としての決意が固まってくる訳である。
 そうするうちに、彼が中学3年の時、年上の仲間に誘われて出場した"ライト・ミュージック・コンテスドのゲストだったモップス(注:当時人気のあったグループ・サウンズの雄!)に刺激され、この頃からプロのミュージシャンになろうという意識が芽生え始めた。
 高校に入ると、“ザ・グループ・サウンズ”なるグループを結成するが、途中で転校、夜間部に通うかたわら昼間は英会話のレッスンを開始する。こうするうちに、岡井大二と出会い、新しくグループを結成しようと、ベーシストを探し、中村真一を加えてザ・サンニンをスタートさせた。これが四人囃子の前身である。キーボードの坂下秀実が参加して、正式に"四人囃子"としてのデビューを飾ったのが、1971年5月の東大五月祭であっ
た。
 その後、1972年から翌73年にかけてコンサート活動を積極的に行なった後、1974年には東宝レコードのタム・レーベルから最初のアルバム「一触即発」を発表している。四人囃子は、その後メンバー・チェンジを経ているが、1975年の夏に"ワールド・ロック・フェスティバル"に参加した事を始めとして、森園個人の活動が活発になった結果、1976年5月に発表された2枚目のアルバム、「ゴールデン・ピクニックス」の録音終了後しばらくして、四人囃子を脱退する事になるのである。
 結局、四人囃子として森園が録音に参加したものは、アルバム「一触即発」、東宝映画「二十歳の原点」サウンド`トラック盤、シングル“空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ”、アルバム「ゴールデン・ピクニックス」、シングル“レディ・バイオレッタ”といった作品群で、他には横須賀出身のグループ、ジュリエットのLP「ヨコスカ・ベイ」に参加している。
 1976年後半になって、プリズムとの交流を深め、ライヴ・スポット等での活躍を重ねた後、プリズムの正式メンバーとして2枚目のアルバム「セカンド・ソウツ/セカンド・ムーヴ」に参加。この頃、フォー・ライフ・レコードから発売されたギター用教則レコードの制作にも関わったりして、活発な動きを見せるようになっている。
 1978年半ばには、しかしながら、プリズムの3枚目のLPの制作を前にしてグループを離れる事になり、ソロ・アルバムの構想を考え始める。
 こうして、制作を開始したレコーディングには、旧友達が参加しており、初めてのソロ・アルバムに対する意欲的な態度は、そのままサウンドに表われているのがわかるだろう。

* 曲目解説
1.DEAR HARVEY
 プリズム時代の仲間であり、このアルバムにもほとんど全面的に参加しているキーボードの久米大作の作品。初期のプリズムのステージに接した事がある人ならば、聴き覚えがあるかも知れない。“HARVEY”が誰を指すのかは、あえて言いません。
 それにしても、エレクトリック・ピアノの音はきれいだと思いませんか。

2.YOU'LL STAY IN MY HEART
 イギリス出身のキーボード奏者、ブライアン・オーガーが1974年に発表したアルバム「STRAIGHT AHAED」のB面最後に収められている曲で、作者はバリー・ディーン。森園は以前から気に入っていたようで、どれほど気に入っていたかと言うと、しばらくこのレコードを返してくれなかったくらいだから、僕の手元に戻ってきた頃には、もう歌詞を覚えていた。森園の声と、音域がそのままぴったりの感じだ。内容は、もちろんラヴ・ソング(!!)
 ちなみに、このブライアン・オーガーは、トニー・ウイリアムズ・グループの一員として、先頃来日している。

3.DARK SIDE OF THE FISH
 この曲も森園のオリジナル。このタイトルに関しては、説明の仕様がありません。だって、僕にもさっぱりわからないんだから・・・。とにかく、本人としては、DARK SIDE OF THE M00N"以上の“狂気”を言わんとしているらしいんだけど・・・・・・。“HIGH TIDE”と共に、このアルバムの中では不思議な構成の曲と言えそうだ。これも、ツイン・ドラムスによるリズム・アクセントが強烈な印象を与える。
 追記:この原稿を読んだ本人が、次のように付け加えてくれと言っています:
「・・・サカナの内面性を追求した、今世紀最大の問題作である。」
 注・・・こう言った森園は、このテーマに取り組むべく、日夜サンマのハラワタを喰らって考え込んだふりをしているらしい。

4.MIDNIGHT WALTZ
 森園のオリジナル。おそらく、どことなく耳馴じみのあるメロディが頭にこびりついてしまうはず。タイトルどおり、静まりかえった真夜中のワルツで、驚くなかれ、森園にもこういった一面があったのです。シンプルな美しさへの憧れへでしょうか・・・(?)

5.HIDE TIDE
 森園のオリジナル。この曲の原題が“NO MORE SAMBA TONIGHT”だったという事を、いったい誰が信用するでしょう。作者としては要するに「サンバのリズムじゃ軽すぎて、なんか、こう、物足りない・・・」という事らしい。
変拍子を組み込んだりした、面白い構成の曲で、ツイン・ドラムスの大迫力に加えて、パーカッションの嵐(!)が、後半を盛り上げている、文字通りの大作!

6.SPACE TRAVELLER
 日本ではあまり知名度のないギタリスト、ジェイムズ・ヴィンセントの曲で同名のソロ・アルバムから。(この人は以前アズテカにいた事がある。)
 なんとも言えず深い味わいのある曲でちっとも難しい事などやっていないのだけれど、ハッとさせられるアイディアが感じられる。歌詞の内容も実に現代的で、一種の警告と言えるもの。諸問題に直面している地球を憂う、森園勝敏クンでした。

7.LAST TANG IN MEMPHIS
ブツカー・T & M.G.'Sの曲でアルバム、“UNIVERSAL LANGUAGE”に納められている。タイトルは、例のマーロン・ブランドとマリア・シュナイダー主演の映画
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」をもじったものと思われ、茶目っ気たっぷりのブッカーT.が想像できるが、曲そのものはゆったりとしたロマンティックな雰囲気を漂わせる。森園としては、その茶目っ気の部分も曲の良さと同じくらいに気に入っているらしい。そう言えば、ブッカー・T.のレコードも見つからないが・・・まあそのうち戻るでしょう(!?)

(Nov. 1 1978 吉成伸幸)
(このライナー・ノーツは1978年発売のLPより転載いたしました)